キレイゴトばかり並べる あのひとたちの言い分は もう 聴き飽きました。
僕が 間違っていると 云うんでしょう。判っています。判っていますとも。
あなたがたに 云われなくたって 僕のことは 僕がいちばん 識っているのですからね。
それなのに まだ 云うのですか。止めてください。許してください。
僕は 毛布を被って ベッドのなかでまんまるくなり 耳を塞ぐのです。
心臓の音だけが 規則正しく 響きます。僕は 確かに 脈打っているんです。
けれども 僕は 今 生きているのか 死んでいるのか。まるで 夢の中に居るような この 浮遊感は 何でしょう。
ずっと 夢をみているみたいなんです。寝覚めても 醒めない夢です。どこからが 現実ですか。これは 現実なんですか。

貴女は 僕を見捨てて 行ってしまいました。否 最初から 僕の存在には 気付いてさえいなかったのでしょう。
嘘ばかり吐く貴女が 僕を鮮やかに欺いてくれたなら 幸せだったのに。貴女に 騙されてみたかったのに。
傍に居られないのなら せめて 記憶の中にだけでも 遺しておいて欲しかったものです。好きになって貰えなくても 良かったんです。
何時までも 貴女に忘れられない為にも いっそのこと 嫌われてしまえば 良かったんです。憎んで呉れるなら 本望だったんです。
最後の最後まで 僕は まるで 居ないみたいでした。貴女に 無視され続けた 透明な 僕。それが 悲しいのです。やるせないのです。
どうして 貴女は 行ってしまうんですか。貴女は 誰だったんですか。僕の存在は いったい 何だったんですか。

嗚呼 僕はもう ここから 動きたくないんです。毛布にくるまれたまま じっとしていたいんです。なんにもしたくないんです。だるいんです。
フェイクファーの ラグの上には 食べかけの ジャンクフード。チープな味は 僕好みです。
ペットボトルも 飲みかけのまま 転がっています。ニセモノのコーラは 甘いばかりで 不味かったんです。
読みかけの 漫画も たくさん 散らばっています。貴女がみたら クダラナイと笑いそうなやつです。僕は くだらないものが 大好きなんです。
服は 脱いだら そのまんまです。ゴミも ずいぶん 放り投げてあります。クスリの入っていた袋とか ひび割れた鏡とか こわれたオモチャとか。
動かない ブリキのロボットは 何処か 僕に 似ています。価値の無い つまらない 捨てられた ガラクタみたいな 僕です。
こんなに 散らかった部屋も いまでは まったく 気になりません。もう 足の踏み場も 無いくらいです。ひどい 景色です。此処は 何処ですか。

点けっ放しのTVから ニュウスが 流れてきました。
化粧の濃い あのアナウンサーの 甲高い声が 頭の中に 反響して 五月蝿いんです。頭が 割れそうです。
どうして こんなに 響くのでしょうか。頭の奥で チリチリと 針でつつくような音もして 割れるように 痛いんです。
あえて 画面は 見ません。僕の 濁った瞳には 美しい彼女も 醜く歪んで 映るのでしょうから。
それにしても さっきから ありえないニュウスばかり 耳にしています。何が 本当のことなのでしょうか。真実は 何処に在るのですか。

この部屋は 時間の流れがゆっくりしていて 時も 忘れます。
今 何時ですか。どうでもいいんですが いったい 何時なんですか。
毛布の隙間から ボサボサの頭をだして 時計を見ます。6時。朝でしょうか。夜でしょうか。

閉めっぱなしの 厚い カーテン。陽の射さない 真っ暗な部屋。TVの画面だけが 明るくて 眩しいです。極彩色の 映像です。
芸能人の ゴシップのコーナーが はじまったみたいです。名前も知らない アイドルが インタビュウを うけています。
リポーターの並べる美辞麗句に 彼女は うっとりと 目を細めます。自意識過剰の 安っぽい 計算し尽くされた笑顔を 振り撒いています。
その 愛くるしい顔は スロウモーションで 動きます。僕の眼が オカシイのでしょうか。僕は 狂っているんでしょうか。僕は 変ですか。

窓の外から 誰かの笑い声が 聴こえます。ほら 女のひとが 笑っているでしょう。聴こえませんか。これは 幻聴ですか。
もしかしたら 笑っているのは 貴女かもしれませんね。幻でもいいから 其処に 貴女が居るのを 見たいような気がします。
すぐに 消えちゃう 儚く美しい 幻覚でも かまわないんです。貴女に 会いたいんです。貴女に 会いたいんです。
なんだか 愉快な気持ちに なってきました。なぜだか 可笑しいんです。なぜだか 可笑しいんです。嗚呼。嗚呼。
笑いを かみ殺しながら ゆっくりと 重たい躰を 起こします。のろのろと カーテンに 手を伸ばします。貴女に 会えるのならば。

DRAW A CURTAIN BACK!