もしも 僕が 死んでしまったなら。そんなくだらないことを ときどき 考える。
死んじゃった後のことなんて どうだっていいや とは 思うけれど あれこれ 考えを巡らしてみる 夜明け前。

遺体は 献体でも 臓器移植でも 好きに使ってもらって構わないと 思っている。
もう死んじゃってるんだから 痛くも痒くも無いんだろう。
生きているあいだ こんなにも役立たずな僕だったから せめて 死んだあとくらい 人の役に立ってみたい。
財布の中に 臓器提供意思表示カードが 入っている。
うまい具合に 脳死状態になったなら 僕の一部だけでも 誰かの為に つかってほしい。

葬式なんて やらなくて良い。どうせ 誰も来ないだろうし。
いつも呑んでる あいつらだって 僕は友達だと思っているけれど 実際 どうなのかな。
僕が死んで 本気で涙を流してくれる奴は いるんだろうか。
いつも迷惑かけてた あいつは ほっとするかもしれないな。そういえば あいつに借りた金 まだ返してないや。

妻は 悲しむだろうか。案外 保険金を受け取って ニンマリしていたりして。
何にせよ 妻は 僕が死んでも 逞しく生き続けてゆくだろう。
妻は 僕を 本当に愛しているんだろうか。よく 解らない。

すくなくとも 僕は 妻を 愛していない。
結婚したのは 成り行きってやつだ。子供ができたから。
子供は ほんとに可愛い。生きているあいだに 子供の顔を見ることが出来て よかった。妻には 感謝している。

けれど 僕には 愛する女性が 他に いたのだ。これは 妻には 死んでも云えない。
もう 遠い昔のことだけれど いまでも 僕が愛しているのは 彼女だけだ。いまごろ どうしているんだろう。
一番好きな人とは 結婚できないとか 結婚しないほうがいいとか 云うけれど 彼女と一緒に生きてゆけたらよかったのに。

運命なんて 信じないけれど 人間の運命って やっぱり 生まれたときから すでに 決まってるんじゃないのかって思う。
逆らえない流れとか 自分の力ではどうにもならないことっていうのは やっぱり 在る。
僕の人生は こんなもんだっていうことに 僕は 納得しなくちゃならない。
僕が遺せるものが どんなに僅かでも。

こうして 懐かしく大切に想い出す女性がいる ということは 僕の人生も わりと 倖せだったんだろうか。

彼女には 僕が死んだ瞬間が わかるといいなあと 思う。彼女だけは 本物の涙を 流してくれたら いいなあ。
世界中が 僕を忘れ去っても かまわないけれど 彼女にだけは 僕を 忘れないで 居てほしい。

こんな 馬鹿げた 祈りが 伝わるとも思えないな。だって 人生なんて そんなもんなんだろう?

BEHIND MY WIFE'S BACK