2003/05/01 (Thu)
 
すっかり暗くなった街角を歩いているとき 世界がくるくると廻り出して
あんまりくるくるといそがしく廻るので 目がまわって倒れそうになった。
地面が 揺れて 歪む 風景。
ふらふらしながら 歩き続ける。

いまは ひろくて あかるいところに ひとりぼっちで 居る。
まっくらやみでひとりぼっちの感覚は このところ すっかり訪れなくて 代わりに
ずいぶんとおくまで見渡せる ひろいところに しろくて眩いひかりで満ちた あかるいところに
ひとりぽつんと居るような感覚に 陥っているのだった。

此処は 何処なんだろう。
この違和感は なんなんだろう。

とおいところを みている。
とおいところに なにがあるのか 遠すぎて 眩しすぎて みえないのだけれど。
2003/05/03 (Sat)
 
犬の散歩 3時間。
ホームセンターと 中古CDやさん2軒と いつもの雑貨屋さんと コンビニと スーパーに 寄り道。
シングルCD2枚と リップグロスを 買った。

ホームセンターには ペットショップが ある。
ガラスのしかくのなかに 1月うまれの柴犬のおんなのこが いる。
みるたびに おおきくなってゆく。
値段がまえよりも下がっていて 広告の品 って 張り紙がされていた。
はやく買うひとが現れれば良いなあ と おもう。
だけど あの犬が売れちゃったら わたしは すこし さみしくなるのかもしれない。
帰ってきて 録画しておいたビデオを観たり(CHARA!) さっそくCDを聴いてみたり(デリコ!)。

自覚と 無自覚。
意識と 無意識。
わかってないより わかっているほうが 良いのだろうから ちゃんと わかっていたい。
2003/05/13 (Tue)
 
体調が わるすぎた。
一睡も出来なかったので ひるまは ふらふらした。
ぐるぐるまわるせかい。ゆれるじめん。
喉というか 舌の付け根というか 耳の奥というか そのへんが 猛烈に 痛い。
声が 出せない。お仕事に ならない。
『いらっしゃいませ』も 『ありがとうございます』も 元気良く云うことが たいせつだというのに。
『ありがとうございます』の 『ま』と『す』のあいだは 幾分伸ばし気味に 媚びたかんじで。
食べものを呑み込むことも 唾液を嚥下することも つらい。
呼吸さえも つらい。
どうやって 息をしていたのだったかしら。
肩が おおきく 揺れる。
鎮痛剤が 効かない。
思考は 悲観的な方向へ すすんでゆくばかりで
だんだんになんにも考えられなってゆくんだなあ ということを 考えていた。
2003/05/14 (Wed)
 
からっぽのこころで眺めている ちっぽけな世界のかたすみは どうしようもないくらい空虚。
2003/05/15 (Thu)
 
息継ぎが 必要だったんだ 游ぎ続けるためには。
そんな 息継ぎの日。
2003/05/16 (Fri)
 
鍵を かけた。
鍵を 捨てた。
鍵を 海に投げた。
鍵は みつからないだろう と おもう。
海は あまりにも あまりにも 広すぎる。
あの鍵でなけりゃ 開かない気がしてる。
気のせいなのかもしれない と おもう。
べつの鍵でだって 開くのかもしれなかった。
それなのに 狂ったように あの鍵でなけりゃ と おもう。
たとえ 奇跡的に 鍵がみつかったとしても 開かないようにも思える。
だって 鍵穴は すっかり 錆び付いてしまっている。
そのうえ 開けたところで 中身は からっぽなのだった。

海は 穏やかに かなしい色を湛えて 寄せたり引いたり している。
何処かに漂っているのであろう 鍵のことを 考えてみる。
探すことは 諦めてしまっていて ぼんやりと 海を 眺めている。
2003/05/17 (Sat)
 
なるたけゆっくりと息を吸い込んで おおきく吐き出す 努力。
息苦しいながいながい夜と 歪んだ昼が ただ 繰り返している。
2003/05/18 (Sun)
 
毛虫をやっつけることに 専念していた。
アカバナトキワマンサクの あかいちいさい葉は あらかた喰い散らかされていた。
殺虫剤を吹きかけると やつらは ほそくながく透明な糸を出して枝という枝からぶら下がるのだった。
やがて地面に落ちてもがくものもあれば 風に揺れて遠くまで飛んでいこうとしているものもあった。
お隣の玄関前のアスファルトの上まで 遠征しているものもあって
駆除しなければ被害はさらに遠くまで及ぶであろうことが たやすく想像出来た。
箒で 枝から下がってるやつらを払い落とし 地面に落ちているやつらをひとかたまりに掃き集めた。
うえから 踏みつけてみると 汚れたいろの液を出してぐにゃりと潰れるのだったが
やつらの数はあまりにおびただしくて とてもぜんぶ踏みつけられるものではなかったので
殆ど 生きたまま スーパーのビニール袋に 突っ込んだ。

残酷な気持ち。ひどく残酷な気持ち。
2003/05/20 (Tue)
 
夕方 部屋の窓から 外をみている時間は とても穏やかで
雨が 降ったり止んだりしているのを 眺めていたりする。

自転車を 磨いた。
すっかり錆付いて おもたくなっていた。
CURE 5-56 をたっぷりとスプレーして ふるい歯ブラシで擦ったのだったが
車輪もチェーンも錆色のままで あまり 変わらなかった。
10年くらい乗り続けているから くたびれてしまっているのも 仕方がないのだとおもう。

犬に フィラリアの薬を飲ませる日だった。
錠剤を舌の奥のほうに乗せて 口を閉じて押さえて やや上を向かせて 喉のあたりを撫で続ける。
やがて 舌先をぺろりとみせたら 無事に薬を呑み込んだ合図。
3匹に ちいさなしろい錠剤を ひとつぶずつ。
1錠 2000円もするのだった。
2003/05/22 (Thu)
 
早起きした。
晴れていた。
パンを食べた。
布団を干した。
部屋に掃除機をかけた。
ついでにノートパソコンのキーボードのうえもがあがあ掃除機をかけていたら
キーがひとつ掃除機のなかに吸い込まれていったので紙パックをひらいて大捜索をしなければならなかった。
探し当てたのはウインドウズキーで埃を拭いて元通りカチリと嵌めた。
犬の散歩を2時間した。
ケータイで薔薇の写真を撮っていたら通りすがりのおじさんに
『ほお 写真が撮れるんですね』と声をかけられたので愛想笑いをした。
布団を取り込んで敷いた。
フェットチーネを茹でてトマトとルッコラと牛乳と卵と黒コショウでどうにかして食べた。
雑貨やおでかけ情報が載っている雑誌を眺めた。
妹がバイトから帰ってきたのでおしゃべりした。
フェリシモのカタログをふたりでみてうだうだ云ってた。
いつものFMラジオから聞き覚えのある曲が流れていた。
夜は黒米とゴーヤチャンプルを食べてにがうりは苦いけれどからだに良さそうな味だとおもった。
夜もほんのすこし犬の散歩をした。
お風呂にはいった。
10時くらいから眠る努力をした。
美肌は夜の10時から午前2時のあいだにつくられるのでその時間は寝ていろって妹に教わった。
眠れないのでいんたねっとをした。
3時ごろやっと眠った。
美肌には程遠いとおもった。
6時に目が覚めた。
早起きした。
晴れていた。
2003/05/23 (Fri)
 
ちいさな駅の切符売り場で 彼は彼女に 切符を買ってやった。
彼女は 『ありがとう』 と 云い それから 『元気でいてね』 と 云った。
彼は 『もう会えないようなこと云うなよ』 と 困ったように笑いながら云ったけれど
彼女には これが最後のような気がしてならなかった。

彼女がホームに立ち電車に乗り込むのを 彼は改札のところからずっと見送っていた。
ただ じっと 彼女を 見つめつづけていた。
電車がやってきて 彼女は乗り込み ドアは音を立てて閉まった。
電車が動き出すまでには すこし間があって
彼女はガラス越しに 改札のところにみえる彼に向かって ちいさく手を振った。
彼は手を振り返すこともせず そこに立ち尽くしているばかりだった。
やがて電車がはしりだして 彼には彼女がみえなくなったし 彼女には彼がみえなくなった。
彼女は膝から崩れ落ちて その場にしゃがみこみ 彼女の頬を 堪えていた涙が あとからあとから伝った。
乗り換え駅に着くまでのあいだ ひとしきり 泣いた。
北千住という駅に辿り着くと 構内には ドトールがあった。
彼女はそこで アイスココアを買い求めて 飲んだ。
疲れたときや かなしいときは 甘いものが 効くのだった。
すごくほっとして 不思議なほど救われたような気分になった。
あの日 一杯のアイスココアは たしかに彼女を救った。

いまでも アイスココアを飲むと 彼女はすごくほっとするのだったが
同時に とある別れの情景が想い出されてしまうので 胸の奥がしゅんとする。
彼女の予感のとおり ふたりは あの日を最後に 二度と会うことはなかった。
『元気でいてね』 は やはり 別れの言葉になってしまった。
アイスココアを 啜りながら すこしだけ ほんのすこしだけ 彼のこと 想い出している。
2003/05/28 (Wed)
 
『ホットロード』 という漫画に 夢中だったころがあって
それは ちょうど 主人公の和希というおんなのこと 同年齢のころだった。
すきな男のなまえを 腕に安全ピンで彫るシーンがあって (4巻の9P)
和希は コンパスの針の先で彫って 彫りすぎちゃうのだけれど
そのシーンを実際に真似してみるほどに わたしたちのあいだで その漫画は 人気があった。
その当時 付き合っていたおとこのこの名前を 左腕の内側に 彫った。
さいしょは 安全ピンで こわごわと刻んでいたのだったが それでは飽き足らず
友達にもちょっと引かれたけれど カッターナイフで 深くふかく 彫った。
血が 滲んだ。傷の深さが愛の深さみたいなところが あったんだと おもう。
漫画の通りに したの名前を ローマ字で。彼の名前は アルファベットで 10文字だった。
そして彼に痛々しい腕をみせたりしたんだと思うんだけれど 彼がどんな反応をしたかっていうのは
ずいぶん昔のこと過ぎて 思い出せない。
半袖の季節がやってきて 急にその出来事を想い出して 左腕を真剣に調べてみたのだけれど
傷跡は 残っていなかった。跡形もなく 消えていた。あんなに 深く 彫ったのに。

『ホットロード』 全4巻を 引っ張り出してきて 読んでみた。
いまでも 泣けた。めそめそ 泣けた。
『春山は 5m そらを とんだ』 あたりから やばいくらい 良い。
2003/05/31 (Sat)
 
たっぷりとよく眠ったし 窓のそとは雨が降っていたし わたしは生き続けていた。
なんだかわからないのだけれど 目が覚めて しばらくのあいだぼんやりしたのちに
とりまく湿っぽい空気か 或いはべつのなにかに ひどく安堵するような朝だった。