2003/07/02 (Wed)
 
病院はきらいで行きたくないのだけれど 歯医者さんだけはべつで わりとうきうきとでかける。
予約の電話をしたのは6月半ばで 2週間程 待たされた。
行ってみると 待合室は 幾人もの小学生と付き添いの親たちがいて 混んでいた。
学校での集団検診で虫歯がみつかったこどもたちは 治療が佳境に入っているところらしかった。
待合室の本棚には漫画がたくさん並んでいて とりわけ41巻まで揃っている『ガラスの仮面』には
すこしこころ動かされたのだったが 読み始めてしまうと睡魔に襲われそうだったので
ながいソファーのいちばんはじっこに座って ぼんやりしていた。暫く経ってから 名前を呼ばれた。
半年にいちどの定期健診だったので レントゲンを撮ったり 歯石をとってもらったり した。
レントゲンの結果 虫歯になりかけている歯がみつかったが 治療は必要無いという。
『ここのところ気をつけて磨いてくださいね』 と 云われるに留まった。
ながいこと通っているけれど こういうことはたびたびあって のんびりとした歯医者だなあ と おもう。
悪徳歯医者や 金儲け主義歯医者ならば 削ったり抜いたりするんだろうに。
塩水が勢い良く出るチューブを口のなかに入れられて 歯の着色汚れをとってもらった。
『塩の味がしますけれど耐えられなくなったら右手を挙げてくださいね』 と 云われて
すぐに耐えられないほどのしょっぱさが口中に広がったのだけれど さいごのさいごまで 耐え抜いた。
おわったあと 『お口のなか塩の味残っているところありますか』 と 訊かれて
『ぜんぶ』 とも 『口ん中すんげえ不味い』 とも 云えなかったわたしは
一呼吸置いて すこし不機嫌そうに 『いえ だいじょうぶです』 と 云うのが やっとだった。
それはそれはひどい目にあったのだったが なぜ歯医者さんはうきうきするのかというと
処置されているあいだ わたしはほそいしろいベッドのようなものに寝そべっているのだったが
そうすると 頭頂部に 処置に没頭しているおねえさんのやわらかいふたつのふくらみが 当たるのだった。
とてもやわらかいのだった。あれはうきうきする。無闇にうきうきする。
2003/07/03 (Thu)
 
570円の切符。9番ホーム。オレンジとみどりの電車。
車内は 学校帰りの高校生で溢れていて わたしは座る場所が無かった。
ふた駅くらい北へ進んだところで 席が空いたので すかさず滑り込む。
シートに置いたつもりの荷物が なぜだかころりと横になり 中身が通路に散らばった。
ハンカチやら ポーチやら 拾い集めていると すうっと手が伸びてきて めがねケースを拾い上げてくれた。
坊主頭の可愛らしい顔の高校生が 微笑みながら手渡してくれるので わたしもつられてにっこり。
『ありがとう』 と 云いながら 受け取った。 『ございます』 も 付けたほうが良かったかなあ。
2003/07/06 (Sun)
 
ジッタリンジンはロックで ホワイトベリーはふにゃふにゃ。
ヨーグルト ぐるぐる混ぜて ちいさく切った桃 混ぜてたべる。
なにかが すこしずつ違っていって なにもかもが もうだめみたい。
宇宙の彼方のことを 考える。けして辿り着けない 遥か彼方のこと。
雨垂れの音 聴きながら ようやっと眠りにおちたのは 明け方のこと。
窓開けたままつめたい風額に感じて あたたかい布団にくるくる包まって 眠る眠る眠る。
2003/07/16 (Wed)
 
11時に目が覚めた。休みの日にしては はやおき。
父親と母親は 既に出掛けていた。テーブルの上に おにぎりが 4つ。
やはりバイトが休みの妹と ふたりで食べろということらしく おどろいたことに メモまで置いてある。
わたしのなまえのしたに コンブ しゃけ と 書いてあり 妹のなまえのしたに 明太子 しゃけ と 書いてあり
4つのおにぎりは 文字のとおりに皿の上に並べられていて だからどれを食べたらいいのかよくわかった。
しゃけを先ず食べて それからコンブを食べた。
ベーコンエッグも つくってあった。ベーコンはよけて たまごのところだけ食べた。
デザートに いちご味のヨーグルトも 食べた。おなかいっぱい。

妹は さっさと外出する準備をしている。わたしは なんだか眠たくなってしまった。
『いまからおひるねしてもいいかなあ』 と 妹に訊いたら 『人間としてだめ』 と 返された。
このごろ 妹たちに なにかにつけてこの 『人間としてだめ』 という言葉を云われる。
すぐに妹は出掛けてしまい ひとりしずかな家のなかにのこされたわたしは
やがてすやすやと寝息をたてたのであった。
ほんとうに だめだ。

目が覚めたら すっかり 夕方。
おふとんのうえで だらんとしていたら 犬たちが寄ってきて そばに伏せをして じっとわたしをみる。
まあなんて可愛らしいんでしょう と 思い 暫く撫でまわしていたのだったが
どうして犬たちが寄り添ってきたのかということに ぼんやりと気が付いた。
そういえば ごはんをあげるのを 忘れていた。こいつら おなかがすいていたんだ。のろのろと 起き上がる。
ドライタイプのドッグフードを 計量カップで2杯ずつ えさ皿にいれ うえにクッキーをのせる。
クッキーは まるくて 素朴なかんじで なかなかおいしそう。
亜十夢(やせすぎ)の皿には3つ 宇蘭(そこそこ)の皿にはふたつ 麗央(ふとりすぎ)の皿にはひとつ。

獣医に行かなくちゃいけなかったので 自転車に乗ってでかけた。
夕方の風は ひんやり。半袖のうでが すこしさむい。
あちこちで 木槿の花が 咲き誇っているのを みる。家によって いろんないろで おもしろい。
獣医までは 自転車で 10分くらい。
フィラリアの薬であるしろいちいさい錠剤を3粒受け取り 6300円を支払った。
6300円あれば CDが2枚 買えるのに。RIP SLYME も Doragon Ash も 買えるのに。

スーパーまで足をのばし お花屋さんに寄った。
観葉植物が 一鉢180円と たいへんお買い得だったので ふたつ買うことにした。
なるたけ元気が良さそうな鉢を しゃがんで選んでいたら 近所のわかい夫婦が通りかかり
『お』 『あら』 と云うので 『こんにちは』 と ごあいさつ。

スーパーのちかくの民家のよこを 自転車で通り過ぎようとしたら その家につながれている犬と目が合った。
伏せをしていた犬は 立ち上がり 尻尾を振り 塀のきわまで歩み寄ってきたので 自転車をとめた。
撫でてくれといわんばかりに 頭を突き出すので やさしく撫でた。
レトリバー系の雑種で 体格がよく いささか年老いているようだった。
クリーム色の毛は ずいぶんながいことシャンプーされていないようすで
脂っぽくべたべたしていて なんだか獣っぽい匂いがした。
目のまわりに幾匹かマダニがついていたので 取ってやって 猶も撫で続けた。
犬はだんだんうっとりしてきて 大谷石の塀のうえに頭をのせて 目をとじて おなかをみせる体勢になった。
そのとき みえた。
犬のおなか 乳房のところが あかく異常なほどおおきく 腫れている。
メロンくらいのおおきさのふくらみは 素人目にも 悪性のものだとおもわれた。
まえにも それを みたことが あった。
近くの家のエリーちゃんのおなかにも おなじようなおおきなふくらみが あった。
それをみかけて ひと月後くらいに エリーちゃんは 死んだ。
乳がんで手遅れだったのだ と あとから おうちのひとに聞いた。
そんなことを思い出しながら わたしは ずいぶんながいこと そこで 犬を撫で続けていた。
なんとなく その場を 立ち去り難かったのだ。
2003/07/17 (Thu)
 
どうにも 意思が弱い。
うっかり CDやさんに でかけてしまった。
買わないつもりだったRIP SLYMEのCDを手に取り ほかにも2まいほどCDを手に取り レジへ。
ボーナスポイントセールというのをやっていたので まんまと買いすぎた。
7245円のお買い上げ。お金は どんどん 無くなってゆく。ふしぎふしぎ。
『アルゴリズムたいそう・こうしん』 は 手に取ってすぐさま棚にもどした。あぶないあぶない。
RIP SLYMEは 買ってよかったとおもった。9曲目12曲目14曲目あたりがすてきだなあすきだなあ。

深夜 半年ぶりくらいに アルコールを摂取してみようという気持ちになった。
ずっと 体調が思わしくなくて 控えていたのだった。
冷蔵庫にあった缶ビールは 見覚えのない外国風のデザイン。
プルタブを開けてしまってから気付いたのだけれど アルコール分はたったの0.9%だった。
なんだノンアルコールビールなのか と すこしがっかりしたのちに
リハビリはゆっくりのほうが良いのだろう と 思い直した。
だけれど ひと缶飲み干してしまうと なんとなくきもちがわるくなった。
ノンアルコールビールで酔えるって どういうことだろう。
どうにも お酒に弱い。
2003/07/20 (Sun)
 
耳を 澄ましている。

明け方 ことしはじめての 蝉の声を 聴いた。
気付いたのが今日だったけれど 蝉は もっとずっと前から 鳴いていたのかもしれない。
じじじじと鳴く 蝉だった。
しずかな部屋に 響いた。

お昼ごろの つよい日差し。眩さ。乱反射。首のうしろに 感じる熱気。

夕方 犬をかまって あそんだ。
宇蘭はとても眠たそうで きつく目を閉じて お布団のうえにおおきく伸びて横たわっていて
すやすやと 夢のなかだったのだけれど
『さんぽ?』 と 訊くと 尻尾だけ ぱたぱた
『ごはん?』 と 訊くと 尻尾だけ ぱたぱた するのだった。
2003/07/25 (Fri)
 
毛布に くるまって 眠る。
窓は 開け放たれている。
肌寒くて 目を覚まして 震える。
かなしい いつかの夏の夢を みていた気がする。
ながい夜のあいだ みじかい睡眠と 覚醒を 幾度か 繰り返している。
東の方角から つめたい風が ずっと 吹き続けている。
蝉が わんわん 鳴いている。
季節が 狂ってる。
2003/07/26 (Sat)
 
毎年恒例の 町内の 夏祭り。
お囃子が響きわたり 神輿を担ぐこどもたちの掛け声が聴こえた。
夜になって 花火大会が開かれる予定だったが 花火の音はいつまでも聴こえてこなかった。
つよい風が吹き続けていたから 中止になったんだろう と おもった。
とおいところから どうんどうんという音が ずいぶんながいこと 聴こえていた。
おおきな河の ひろい河川敷の花火大会も 今日なのだった。
あっちは中止にならなかったんだなあ と おもった。
外に出て陸橋のうえにのぼればちいさく花火がみえるんだろう ということを ぼんやり 想像したけれど
部屋の中で じっと ずっと どうんどうんという音を 聴いていた。
なにもかもが 気怠い夜。
2003/07/28 (Mon)
 
シュークリームを いちにちに ふたつ 食べた。

ひとつめは モンテールの 牛乳と卵のカフェラテシュー。
モンテールは コンビニやスーパーで お手軽に買えるのだけれど
シュークリームにしても ワッフルにしても ほかのデザートにしても
クリームがたいへんクリーミーで なかなか本格派で なかなかおいしい。
うちの冷蔵庫をあけると かなりの確率で モンテール製品に出会える。
しあわせ。

ふたつめは 神田精養軒の クレームパフ。
皮が香ばしくてサクサクで クリームにはヴァニラビーンズの黒い粒々。
妹が 買ってきてくれたのだった。
しあわせ。

おしごとが やけに忙しくて へとへと。
座りきれないほど つぎつぎにお客さんがやってきて
幾人かは諦めて帰り 幾人かはそとで暫く待っていて 幾人かは時間をずらしてもういちどやってきた。

疲れたときには 甘いもの。
シュークリームを ふたつくらい食べなきゃやってらんない そうゆう忙しさ。
2003/07/30 (Wed)
 
夜が明けるまえに 目が覚めてしまった。
読みはじめたばかりの本を ひらいた。
『熱帯植物園』 室井佑月。
珍しい 聞いたことも見たこともない花の描写を 繰り返し 読んだ。
”青緑色の花” ”ペイズリー形の花が房になって” ”蔓から垂れ下がっている”。
みてみたいなあ と おもって パソコンを起動した。
ブラウザのアドレスバーのしたにくっつけてある ぐーぐるの検索バーに 花の名前を入力する。
翡翠葛。ひすいかずら。51件の検索結果が みつかった。
うえからひとつめをひらいて 写真がちょっとちいさいなあ と おもった。
うえから5つめをひらいて そのうつくしさに 暫し 見蕩れた。
鮮やかな ブルー。なんて きれいなんだろう。 →Strongylodon macrobotrys

さきにこの小説を読み終えている妹にも 見せようと おもった。
まだ5時だったけれど 妹は 仕事にでかけるために 起きて準備をしていた。
ノートパソコンでワイヤレスでいんたねっとしていると こんなとき 持ち運べて便利。
電源コード取り外して パソコン持って 妹のところまで。
あの小説の あの場面にでてくる あの花なのだということを 説明した。
妹は なんにも 云わなかった。黙ったまま ただじっと モニターをみつめていた。
朝は たいてい 機嫌が悪いのだった。けれど 心なしか すこし 微笑んだようにも みえた。
わたしは 妹にその花を見せたということに とても 満足した。

それから小説に戻り さらに読み進めていくと ポテトチップス という言葉が
本編とはあんまり関係なく さっぱり重要じゃないかんじで さりげなく書かれてあったのだけれど
わたしの頭の中には ポテトチップス という言葉が たいへんに強烈に響き
もう そのことで いっぱいになってしまった。
ポテトチップス。ポテトチップス。ポテトチップス。
たべたい。いますぐに。

うちには ちょうど 湖池屋のり塩 が あった。
湖池屋のり塩は 数あるポテトチップスのなかでも最強に最高に美味しい と おもう。
ウーロン茶も取りに行って さっそく食べ始めた。
ひとふくろ ぜんぶ たべてしまった。
指先が 青海苔と塩と油で べたべたになるので そのあいだ 読書は中断。
すっかり食べ終わると 洗面所に行って 先ず 手を洗った。
それから 丁寧に 歯を磨いた。
ついでに 顔も ばしゃばしゃ 洗った。
とても 満足した。

もういちど読書に戻ったのだったが おなかが満たされてしまうと 途端に眠いのだった。
時計をみると7時で おしごとに出掛ける時間まで ひと眠りできそうだった。
毛布にくるまって 束の間 眠った。
とても 満足して 眠った。
2003/07/31 (Thu)
 
午前3時に目が覚めてしまい 6時に朝ごはんをたべた。
8時くらいから 犬の散歩。
太陽がぎらぎらと照っていて ひさしぶりに夏みたいに暑い日になるのであろうことを予感させた。
息切れする犬たち。木陰でひとやすみ。

うちに帰って 茶の間で 点いていたテレビをぼんやりながめていると
名前もしらない番組のゲストは ますだおかだ だった。
どちらかというと ますだ が すきだ。
ちいさくて おもしろいから。M-1グランプリ獲ったとき 泣いていたのも よかった。
けれど その番組をみていたら おかだ も けっこうすてきかもしれない と おもった。
おかだ の おかんが おもしろかったからだ。
やけに低いテンションで なげやりな親子丼をつくっていた。
あんなおもしろい母親に育てられたのかとおもうと おかだ好感度は 急上昇だ。
まあ べつに どうでもいいんだけど。そんなに ますだおかだ すきじゃないけど。

温泉に でかけた。
車で行ったら 酔ってしまって 着いたときには ふらふら。
さっそくお風呂にはいって 元気を取り戻した。
やけに良いお天気。やけに強い日差し。けれどひるまずに 露天風呂もたのしんだ。
とんぼが飛んできて 岩にとまった。くろい羽根の でかいやつ。
100畳ある大広間で おひるごはん。
鮭のおにぎり 紫蘇のはいった玉子焼き きゅうりのお新香 メンチカツ 茄子のはさみ揚げ などなど。
持ち込み禁止の張り紙がしてあるけれど あんまり守られていないし おこられもしない。
そしてまた お風呂お風呂。お風呂上がりに カルピスウォーター。
3時くらいに 眠たくなってしまったので ビデオ映写室というところに 行った。
等間隔で仮眠ができるマットレスのようなものが並んでいて 毛布も借りられる。
大きなスクリーンには なぜだかワイドショーが映し出されていて マヤマヤが水着チェックをしていた。
ボリュームは小さめで 照明は暗め。
横になって毛布にくるまっていたら すぐに眠れた。
かっきり1時間後 ぱっちり目が覚めた。
つめたいクーラーの風が攻めて来て さむくて起きた。
あったまるために もういっかいお風呂。
ここのお湯は 塩分が多くてしょっぱい。目にはいると 沁みる。
ぶくぶく泡立つお湯に 顎まで浸かり その飛沫をぼんやりみているひととき ひどく安らいだ気持ちになった。
温泉って とてもすてき。 →Do you want to go?