2004/05/01 (Sat)
 
牛乳をたっぷり入れた なまぬるいコーヒーを啜って過ぎていく 真夜中。
だんだん空があかるくなって にわとりが鳴きはじめる 明け方。
こころのなかで ちいさく祈る ねがいごと。
2004/05/07 (Fri)
 
太い道路の脇の植え込みには 名前も知らない雑草と 菜の花と それから 姫女苑。
姫女苑摘んで来て ちいさなちいさな一輪挿しに活ける。
ぺんぺん草 (ほんとうのなまえはナズナというらしいけれどどうしたってぺんぺん草と呼んでしまう) を
ガラスのコップに活けてある 咲いたばかりの薔薇と 新芽が伸びてきたアイビーのあいだに 飾る。
近所の雑貨やさんの レジの横には 立派な花器があって
花やさんに並んでいるような花とともに たくさんのぺんぺん草が挿してある。
このまえみてきて まねっこしてみたかったのだった。
2004/05/08 (Sat)
 
隣の隣の隣の隣の家が 挨拶もないままに いつのまにやら お引越しされたようなのだった。
誰も居ない荷物も無いがらんとした家のまえのコンクリで 猫が ひなたぼっこしている。
たしかその家で飼われていたはずの まっしろい猫が のんびり ひなたぼっこしている。
2004/05/10 (Mon)
 
霧みたいなこまかい雨粒が 頬を濡らしている。
家並みの向こう側から 蛙の鳴き声が響いている。
夜闇のなかで 『安心が欲しい』 だなんて 呟いてみている。
2004/05/13 (Thu)
 
吹き飛ばして 蹴散らして タンポポの綿毛であそぶ 曇り空のした。

雨がぽつぽつ落ちてくるころ 駅へ向かい 電車に乗る。
エミール・ノルデという画家の 水彩画と版画の 展覧会へ。
原色の 鮮やかさ。
絵の具の 混ざり具合。
滲んだいろの うつくしさ。
大胆な構図と 力強い筆づかい。

展示室の壁一面に おおきく印刷された言葉を 幾度も幾度も 読む。
『幸いにも以前は次々に意欲が沸き起こり、絵を描かずにはいられなかった。今日では、とにかく何かをしていなければ耐えられないので描いている。それでもまだ背筋を伸ばし、私の小さな絵たち、おまえたちだけには、私の苦悩、痛み、私の蔑みを打ち明けよう。 エミール・ノルデ 「余白の言葉」 1944年10月3日』

企画展ばかりでなく 常設展も なかなかたのしめた。
草間彌生 『魂の眠れる谷間から』 (じろじろみたくなる作品)
柄澤斉 岡田隆彦詩 『植物の睡眠』 (ひどくこまかい版画)
岡上淑子 『美学』 (窓のところにちょうちょがいる絵)
などが こころにのこった。

イケムラレイコ 『顔 (夜景)』 という作品のまえで はたと足を止め
そうしてずいぶんながいこと その絵をみていた。
くらい夜の中に おんなのこの顔が ぽっかりうかんでいる絵なのだった。
おんなのこは 泣いているようにみえた。
きっと泣いているのじゃないかとおもう。
2004/05/17 (Mon)
 
遠足のまえの日みたいな気分で 眠れずにいた明け方
カッコウの鳴き声を耳にしたので 今日から夏なのだと決めた。
2004/05/23 (Sun)
 
おおきな松の木に住んでいるらしいカッコウは 早朝ばかりでなく 昼間だって鳴く。
さらには 真夜中から明け方まで ずっといつまでも鳴き続けていたりもするのだった。
いったい いつ眠っているのだろう。不眠症なのかもしれない。
つめたい雨が降り続いている。ピンクの毛布にくるまっている。
夏と決めつけるには まだすこし寒すぎた。
2004/05/29 (Sat)
ガード下に 居る。
片側一車線のほそい道路のしたを通り抜けるための ごくみじかいトンネルのなかに 居る。
トンネルの出口には ぶ厚い鉄製のシャッターがあって 完全に閉ざされてしまっている。
通り抜けられないので引き返してみると 入り口にも ぶ厚い鉄製のシャッター。
ただし こちらは完全には閉まっていなくて 地面とのあいだに 10センチほどの隙間がある。
這いつくばって 隙間から 外をみる。
外に出たくて 声を出して 助けを呼んでみる。
だけど 誰にも 聴こえない。気付かない。通り過ぎるひともいない。ひとり。
ひとりぼっちで トンネルのなか。

そんなイメージが頭んなか浮かんで消えやしないので 幾度も幾度も寝返り打って 眠れずにいた。
2004/05/30 (Sun)
 
窓から勢い良く入ってくる風が あきらかに湿気を含んでひんやりしていて
だから どこか遠くのほうで 雨が降っているんだとおもう。
心地良い風に吹かれながら 記憶を辿る会話。
なんだかどんどんいろんなことをわすれていってしまっている。

空き地の 地面を覆う へびいちご。
植え込みに群生する 昼咲き月見草。
妹が運転する あかい車。
美容室で読んだ雑誌の 対談記事のおはなし。
ショッピングセンターのなかの 冷蔵庫みたいなつめたさ。
魚売り場の生け簀に泳ぐ ウマヅラハギの とぼけた顔。
きょうのいろいろもいつかとおくなってすっかりわすれてしまったりするんだろう。

日々は 慌しく過ぎてゆく。
ただ 過ぎ去ってゆくばかり。
2004/05/31 (Mon)
 
オナガという名前の鳥が どんなふうに鳴くのか 知った。
カッコウのあたらしい呼び方や オナガの鳴き声について 話していたのだった。
しばらくおはなししていたら 鳥の鳴き声が 窓のそとから聴こえてきて
みると 電線のうえに 尻尾のながい優美なすがたの鳥が止まっていて
しきりに  ぎ〜! ぎ〜! と 鳴いているところだった。
教えて貰ったとおりの 鳴き声。

おはなしするひとがいるのはあんしん。